心理検査が王様になるとき
こどものつむぎスタッフ、前岡です。今日は心理検査についてお話したいと思います。
【検査結果の数値と子どもの姿が違う?】
「心理検査の結果は悪くないのに,なんでできないの?もっとできるはずでしょ!頑張りなさい!」(心理検査=その人の持つ知能や発達を調べる検査のこと)
テストの点数が悪かった障害のある子どもは,こういうことがよく言われやすいと思います。確かに子どもを「できない子」と判断せずに,まだ発揮してない力があると信じることは,これから子どもが伸びる可能性を応援し,やる気に火をつけさせるという意味で大切なことだと思います。
でもこうした心理検査の使われ方について,スッキリしない部分もあります。私は心理士として働いており,心理検査をもとに子どもを評価することはありますが,心理検査に対しては慎重に取り扱うようにしています。どういうことかというと,「心理検査は子どもの姿が見えてくるな」と思う一方で,「心理検査だけでは子どもの姿は見えないな」とも思うのです。だから心理検査での数値が高く,テストの点数が低い時には,「もっとできるはずだよな」と思いつつ,「心理検査ではわからなかったこの子の学習に対する難しさがあるのかも」と思います。
【検査結果の王様化】
「心理検査の結果が全て」と考える風潮が強まっているように思います。今の社会が,数値などのエビデンスに絶大な信頼を寄せ,数値で測れないものは信頼できないとされやすいためです。すると検査結果が,子どもの全てを語ることのできる王様になると言ってもよいでしょう。検査結果が王様になると,どうなるのでしょうか?
2つ考えられます。まず親や学校の先生など,子どもを取り巻く周りの人の声が消えてしまいます。周りの人が子どもと接している中で思ったことは,検査結果の前では,なおざりにされやすくなります。なぜなら,数値で表されたものが信頼でき,数値に表されてない言葉は信頼できないからです。
また子どもの「本当の姿」が想定されてしまいます。検査結果から見えてくる子どもの様子を,「本当の姿」と見てしまい,例えばテストで点数が取れない状況になった時は,周りの人は,点数が取れると想定された「本当の姿」に近づけるように努力するのです。しかしこのような見方に立ってしまうと,検査結果が導き出した「本当の姿」以外は,取るに足らないものとされ,目の前の子どものことが見えなくなってしまいます。目の前の子どもよりも,「本当の姿」を見ているからです。そもそも「本当の姿」があるとしてしまうことに,疑問が残ってしまいます。
【想定から想像へ】
検査結果は子どもの全てを映し出しているわけではないけれど,かといって検査結果を全て無視するのは心理検査の意味がなくなります。この王様に対して,私達は服従するのでもなく,無視するのでもなく,良好な関係を築いていく必要があります。ではどうしたら良いのでしょうか?
検査結果は「本当の姿」を想定することによって,「本当の姿」でない目の前の子どもの様子が大切にされないということが問題点でした。そこで,「想定」することから,「想像」することを提案したいと思います。ある1つの子ども像だけに固執することなく,様々な子どもの姿に思いを巡らすということです。「テストで点数が取れないのは,テストに苦手意識があるのかな?覚えることがしんどいのかな?検査の時は興味があったからできたのかな?集中しやすかったからできたのかな?」こうして目の前の子どもから,いろいろな可能性を想像していきます。その想像を膨らませる手助けとして,検査結果はあると思います。また家庭での様子,学校での様子も知ることができるとさらに想像力が働きます。そのため想像しようとするスタンスであれば,親や先生の声にも耳を傾けたくなります。
想像することで子どもの多様な姿が思い浮かべられると,いざ子どもがしんどくなった時に,「がんばれ!」という言葉を一旦飲み込んで,そのしんどさに気づくことができるかもしれません。